11月の作品紹介エッセイ
「木漏れ日のmemory ~ある夏のコルパ川~」LEON TERASHIMA
けれど不思議なことに、夏の午後、木漏れ日が揺れる景色に出会うと、突然あの日の自分が帰ってくる。草の匂い。頬をなでる風。遠くで聞こえる誰かの笑い声。そして、もう二度と戻ることのできない、あの長い夏休み。今ならわかる。
あの頃、何も持っていなかった私が、実は人生でいちばん豊かな時間を持っていたのだと。川は今も、あの日と同じように輝いているのだろうか。
もし、もう一度あの場所に立てるなら、幼い自分にそっと伝えたい。
「その景色を、ずっと忘れないで」と。なぜなら、人生という長い旅の途中で、いつか心が帰りたくなる場所になるからだから。
「アンダンテホテル」LEON TERASHIMA
ホテル・アンダンテの屋上にあるプール。水面に映る青空は、まるで空と海がひとつになったように、どこまでも透き通っていた。 眼下には、陽光を浴びたバルセロナの街並みが広がっている。歴史を重ねた建物の屋根が幾重にも連なり、その遥か向こうには、サグラダ・ファミリアの尖塔が夏の空に溶け込むように佇んでいた。 君はプールの縁に腰掛け、遠くの景色を眺めながら、何かを見つけた子どものように微笑んでいた。 あの日、僕たちは何を話したのだろう。 たわいもない冗談だったかもしれない。明日の予定だったかもしれない。あるいは、何も話さず、ただ同じ景色を眺めていただけだったのかもしれない。 不思議なものだ。
交わした言葉は少しずつ記憶から薄れていくのに、君の横顔や、頬を撫でた風の温かさ、そしてあの空の青さだけは、今も鮮やかに思い出せる。
飛行機が一筋の白い線を描きながら、ゆっくりと空を横切っていった。
その先には、どんな街があるのだろう。 そんなことを考えながら、僕は心のどこかで、この時間が永遠に続けばいいと思っていた。 けれど、夏はいつだって足早に過ぎていく。 旅が終わり、季節が巡り、あの日のバルセロナは遠い思い出になった。 それでも、ふと夏の青空を見上げるたびに、僕はあの屋上へと帰っていく。 眩しい陽射し。きらめく水面。遠くに見えるサグラダ・ファミリア。 そして、隣にはいつも君がいる。
あの街が特別に美しかったのは、きっと景色だけのせいではない。
君と見た夏だったから。
僕の心の中で、バルセロナの空は、今もあの日の青さのままだ。