「木漏れ日のmemory ~ある夏のコルパ川~」LEON TERASHIMA
幼い頃、祖母の家の近くに小さな川があった。夏になると、私はよくその川へ出かけた。木々の間から差し込む陽の光が、水面にきらきらと輝いていた。風が吹くたびに葉が揺れ、まるで川全体が静かに呼吸しているようだった。あの頃の私は、時間というものを知らなかった。ただ水面を眺め、鳥の声に耳を澄ませ、風の行方を目で追っていた。何かを手に入れたいとも、どこか遠くへ行きたいとも思わなかった。そこにいるだけで、世界は十分に美しかった。やがて大人になり、いくつもの季節を越え、あの川から遠く離れた。いつしか、あの頃の記憶も薄れていった。
けれど不思議なことに、夏の午後、木漏れ日が揺れる景色に出会うと、突然あの日の自分が帰ってくる。草の匂い。頬をなでる風。遠くで聞こえる誰かの笑い声。そして、もう二度と戻ることのできない、あの長い夏休み。今ならわかる。
あの頃、何も持っていなかった私が、実は人生でいちばん豊かな時間を持っていたのだと。川は今も、あの日と同じように輝いているのだろうか。
もし、もう一度あの場所に立てるなら、幼い自分にそっと伝えたい。
「その景色を、ずっと忘れないで」と。なぜなら、人生という長い旅の途中で、いつか心が帰りたくなる場所になるからだから。
けれど不思議なことに、夏の午後、木漏れ日が揺れる景色に出会うと、突然あの日の自分が帰ってくる。草の匂い。頬をなでる風。遠くで聞こえる誰かの笑い声。そして、もう二度と戻ることのできない、あの長い夏休み。今ならわかる。
あの頃、何も持っていなかった私が、実は人生でいちばん豊かな時間を持っていたのだと。川は今も、あの日と同じように輝いているのだろうか。
もし、もう一度あの場所に立てるなら、幼い自分にそっと伝えたい。
「その景色を、ずっと忘れないで」と。なぜなら、人生という長い旅の途中で、いつか心が帰りたくなる場所になるからだから。
「BLUE EMOTION」LEON TERASHIMA
旅には、何年経っても忘れられない風景がある。地中海に浮かぶ小さな島国、マルタ共和国。眩しい夏の陽射しに包まれたその島には、私がそれまで知らなかった、いくつもの青があった。空の青、海の青、そして、そのふたつが溶け合うように生まれる、名前のない青。コスピクアの港から首都バレッタへ向かう小さな連絡船に乗った。船がゆっくりと岸を離れると、蜂蜜色の石造りの街並みが少しずつ遠ざかっていく。振り返れば、長い年月を生きてきた建物たちが、まるで一枚の絵画のように海の向こうに広がっていた。何百年もの歴史を刻んだ街と、今日という一日を惜しみなく輝かせる夏の太陽。その対照的な美しさに、しばらく言葉を失った。
ふと水面に目を落とすと、そこにはもうひとつの空があった。風に揺れる波が太陽の光を受け、無数の青い宝石のようにきらめいている。空が海に映っているのか、それとも海が空を染めているのか。その境界さえ曖昧になるほど、目の前の世界は青く、明るく、そして美しかった。
旅先で出会う風景は、いつも少し不思議だ。初めて訪れた場所なのに、なぜか懐かしく感じることがある。二度と同じ瞬間には出会えないと知っているからこそ、何気ない光や風のひとつひとつが、心の奥深くに刻まれていくのかもしれない。船はバレッタへと進み、コスピクアの街は少しずつ小さくなっていった。けれど、あの日見た青い世界だけは、今も私の中で色褪せることなく広がっている。旅が終わっても、風景は終わらない。遠い地中海の夏の日。あの船の後ろに広がっていた、どこまでも青い世界。それはきっと、私が旅から持ち帰った、いちばん美しい宝物なのだ。
ふと水面に目を落とすと、そこにはもうひとつの空があった。風に揺れる波が太陽の光を受け、無数の青い宝石のようにきらめいている。空が海に映っているのか、それとも海が空を染めているのか。その境界さえ曖昧になるほど、目の前の世界は青く、明るく、そして美しかった。
旅先で出会う風景は、いつも少し不思議だ。初めて訪れた場所なのに、なぜか懐かしく感じることがある。二度と同じ瞬間には出会えないと知っているからこそ、何気ない光や風のひとつひとつが、心の奥深くに刻まれていくのかもしれない。船はバレッタへと進み、コスピクアの街は少しずつ小さくなっていった。けれど、あの日見た青い世界だけは、今も私の中で色褪せることなく広がっている。旅が終わっても、風景は終わらない。遠い地中海の夏の日。あの船の後ろに広がっていた、どこまでも青い世界。それはきっと、私が旅から持ち帰った、いちばん美しい宝物なのだ。